2008年8月29日金曜日

低エントロピーな人工物と風景の良い例

この記事は永井俊哉氏の「エントロピーの理論」を基礎としている。詳しくはこちらを参照されたい。

氏はこうも発言しています。

>しかし人間が、環境の熱エントロピーを
>増大させながら創り出している
>低エントロピーは、決して身体や建築物といった
>物質レベルでの資源だけではない。我々が創り出す意味の世界も、
>無意味という無秩序を否定しているという点で、
>低エントロピーなのである。

中略

>たしかにエントロピーはエントロピーであって、他の概念に
>置き換えることは難しいのですが、最も汎用性がある概念は、
>不確定性だと私は考えています。

>散らかっている部屋は無秩序であり、私たちは「汚い」
>と感じますが、
>そういう部屋では、どこに何があるのかわからないので、
>不確定性が大きいといえます。

>反対に、整理整頓された部屋には秩序があり、私たちは
>それを「きれい」と
>感じます。その部屋では、どこに何があるのか
>わかりやすいので、不確定性が小さいともいえます。
出典 エントロピーの法則

このような視点から見て、
建築物として挙げられる良い例としては、以下のものが挙げられる。

ホワイトコートの家 / 小川晋一都市建築設計事務所

ホワイトモノリス / 榎本弘之建築研究所

金沢21世紀美術館 / SANAA


エントロピーを複雑さの指標とするならば、シンプルである事、不必要なディティールを排している事はすなわち低エントロピーであるという事である。そういった理由でいずれもシンプルモダンに分類される白い建築を選んだが、白は色であっても、有彩色ではない。モノトーンの中でも、人がものをかくと言えば普通は白い紙である事から、白という色は人にとって低エントロピーである事がわかる。(何かを紙に描き始める、つまり紙の上のエントロピーを上げるにはまず、低エントロピーな紙、すなわち白い紙が必要だというわけである。)

また、こういった非常に低エントロピーな(つまり価値のある)建築の中では、高エントロピーのものを置くと非常に汚く見える。ゆえに、そこに置く椅子やテーブル、トイレといった生活必需品やコンピュータもまた、低エントロピーな品でなくてはならない。こういった低エントロピーな建築を雑誌等で写真によって紹介する際に、よく置かれるコンピュータの筆頭が近年のMacである。これもシンプルモダン(低エントロピー)な外観だから、見た目のエントロピーを高くしない。

往々にして、シンプルさと清潔感が特徴の当方の作品は、よく「かっこいい」と評される事が多い。海外の人の反応は「Cool」などである。シンプルな構造をなぜ人は瞬間的に「かっこいい、Cool」と判断するのだろうか。つまりは、永井俊哉氏の言う所の「複雑さが排された低エントロピーできれいな構造」である事を瞬間的に判断しているから、という部分が大きいのだろうと当方では考えている。Coolとは冷たいという意味でもあり、本来の熱力学的に「これは低エントロピー」と言っているも同然であるから面白い。

また、当方の写真で言うならば、
「意図を可能な限りはっきりさせる事」
「余計なものは入れない事」
「選択した以外のものはばっさり捨てる事」
「カラーマッチングも意図が伝わりやすいように調整」
「意図はできるだけ少なくする事」
と、MacBook DPのコツはどれも「低エントロピーな写真にするためには、どうしたらいいか」という事をいろいろと考えている事がわかる。おそらく、こういった極端なまでの思考が写真に現れているからこそ、あのサイトは「(シンプルモダンなMacに)似合っていない」というツッコミが入らないのであろう。つまり写真が低エントロピーなのである。

(自画自賛気味であるが、私は生まれつき、あまり日本人らしくそういう所を遠慮する性格・気質ではないのかもしれない。)



言うならば、「デザインとは低エントロピー化であり、科学であると言ってしまっても良いくらい」だと個人的には思っている。

ゆえに、かっこいいと評される作品を創りたければ「エントロピーとは何か(特に低エントロピーとは何か)」を知る必要があるのだ。(できるアーティストは、エントロピーという言葉は知らなくとも本能的にこの事を知っているのではないだろうか。)

当方の目から見れば、ぐちゃぐちゃとして、整理整頓されていない表現をしようとするデザイナーはまだデザイナーではない。高エントロピーな要素を潔くばっさりと切り捨てて「低エントロピー感」を演出できるのが真のデザイナーであると当方は考えている。

こういった視点から見て、何人か「低エントロピーなデザインを理解して実行している」デザイナーの筆頭として、個人的には深澤直人氏が挙げられると思う。また、Appleのデザインチーム(ジョナサン・アイブ氏など)も相当に優秀である。

そういうわけで、永井俊哉氏には、Macが似合うのではないかと勝手に考えている。